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『ハルマゲドン1999』

第1部        〜山田の決意〜

 

 山田は実際疲れきっていた。彼はベットからムクリと起き上がると、おもむろに愛用のマイルドセブンに火を点けた……。と、あたりに異様な臭いが漂う。山田はフィルターについた火を慌ててもみ消すと、カーテンを開けた。陽はすでに高く、まどろむような雰囲気がゴミの散らかる部屋を寂しげにつつみ込んだ。重苦しい胃の奥には昨日の後悔がつまっている。しかし山田は笑ってはいないか。

 ノロノロとダイニングに向かうと、遅めの昼食を口にした……。山田にとって昨日と同じ日々の繰り返しになるはずだった。口に

入ったパンが、布を噛んでいるような感触を与える。山田の唇は、その時ハッキリと笑っていた。

 

 昨日の事だった……。山田は慣れぬ酒を呑みにチンケな居酒屋へと足をはこんだ。

「おや、早いじゃないかい。仕事はどうしたんだい?」

昔は美人だったらしい女主人が、なれなれしく話しかけてきた。

「……静かにしててくれ……」そう冷たく言い放つ山田に、女主人は溜め息まじりに「ふふっ……いつのもの事ね……」と言葉を返し

た。

 そう。確かに山田はいつもどおり無口で、一見不機嫌そうにも見えた。しかしこれは、なにか嬉しいことがあったのだと、女主人は気づいていた。

 そう……今山田の着ているジャケットの内ポケットには、一切れの宝くじが忍ばせてあった。

「くくく……」不適に山田が笑う。「6千万だ……」山田はつぶやく。確かにその宝くじは一等のくじであった。しかし彼はこれをそのまま換金する気はない。彼はこの紙切れ一枚で、ある男を破滅させようとしているのだ。山田の頭の中ではGoヒロミの歌う『オクセンマン オクセンマン……エキゾチックゥ〜ジャパァ〜ン』という歌が繰り返し響いていた。

 そう……その男は通称”ヒロミ・Go”。今は○八のCMに出ているはずだ。「やつのせいで、俺は…………!」山田はふと、”ヒロミ”の顔を思い出したとたん、険しい顔立ちに変わった。

 

 Goは、うだつのあがらない山田と違い、常に日の当たる場所で生きてきた。

 まったく対照的である二人だが、知り合ってからしばらくの間は仲の良い友人同士にみえた。

 

 山田は、ふっと我に返ったように、バーのカウンターを立つと、フラフラと外に歩き出した。

「お勘定はつけとくよ」女主人がいつものように山田の背中に向かって大声で叫ぶ。しかし山田の耳にはその声は届いていない。彼は『ハルマゲドン』へと急いだ。

 

 山田は『ハルマゲドン』の入り口に立つと、辺りを軽く見渡し人気の無いのを確認すると、滑り込むように中に入っていった。

『ハルマゲドン……』山田はその表情から感激を読み取れるほどの恍惚の様子を示してつぶやく。しかしすぐ先ほどまでの険しい表情に戻ると、一つのコンソールの前に歩み寄った。すると、不意に後ろから山田を呼び止める老婆の声が聞こえてきた。「ヒッヒッ

ヒ……銭はもってきたんじゃろうなぁ……?ヒョエッへっへ……」

「やあ、リリスばあさん、あんたまだ生きてたのか」

山田が嬉しそうに返事をすると、リリスと呼ばれた老婆は皺だらけの顔を一層皺くちゃにして、奇妙な表情を作った。

「ヒッヒッヒ……あんたが、ここに来たという事は、いよいよあの男に……復讐をするのじゃな……?」

老婆は気味悪げにしゃべると、山田は老婆に向かって無造作に宝くじを投げすてた。

「ホゥ」リリスは小さい目を一瞬開いて番号を確かめると、小さくうなずいた。「6000万かい。それなら6回だよ、ヒ、ヒ、ヒ」暗闇を切り裂くような鋭い笑いがしばらく続く。山田はコンソールの前で静かに息を整えると、突如奇声を放った。

「あたっ!あたっ!あたっ!たっ!たっ!うぁたーっ!!!」

山田の指は激しく6回スイッチを押し終わると、ボソリとつぶやいた。

「ひろみ……お前の命もあと3日だ……」

 

 家に戻ってきた山田は泥のように眠り、そして重苦しい思いで目覚めたのだった。あと二日……あと二日で確実にハルマゲドンが発

動するのだ……。

「腹がへったな……」山田はブラリとコンビニへ足を運んだ。

「(……いいかい……山田よ、もう後には引けないんじゃよ……。お前がボタンを押したならば、お前にも死より恐ろしい運命が待っているのじゃよ……ひっひひ)」

 ふいに山田に別れ際のリリスの言葉が思い出された・・・・。

「かまうものか……」

 山田は押し殺した声でつぶやく。6人のハルマゲドンを発動する代償が高くつくことは覚悟していた。しかし山田はその恐怖をまだ理解していなかったのだ。

 

第一部 完

 

 

第2部  〜因縁のネジレ曼荼羅一人旅編〜

 1989年・・・東京。山田は大学を卒業すると、住友商事へと入社が決まっていた。くしくも同じ年に同期としてヒロミGoも入社が決まっていた。そして何者かの意志によって導かれたように二人は出会った。

『はじめまして、山田広海です!』 ……初々しい、という表現がピッタリだった。新入社員の山田は、頭を下げてからゆっくりと社

内を見まわす。その中に一人、ひときわ目立つ顔立ちをした男がいた。……それがヒロミとの出会いだった。

 まるで、神が見えない宿命という糸を操り、二人をめぐりあわせたかのように、その男は居た。「俺はヒロミ・Goだ。よろしく!」山田の目の前にヒロミは立つと、鼻声で自己紹介をした。

 似ている……というわけではなかった。むしろ陰鬱そうな山田と華やかな ヒロミでは正反対とも言えた。しかし二 人は、見えない絆を感じていた。

 ヒロミは山田と共に仕事をする事になり、自らの持つノウハウを全て山田に叩きこんだ。プライベートでも、ひどく世話を焼いて、山田は良いパートナーに恵まれたと幸せに感じた。しかし、既にこの時点で、ある計画が始まっているとは知る由も無かった……。

 

 その後、山田とヒロミは5年後には課長にまで上り詰め、山田は結婚をし、永遠にも続くと思われた至福の時を味わっていた。だが山田とヒロミの運命の歯車は静かに壊れ始めていった。

 

 

 ある日・・・山田は廊下で部長に呼び止められた。「山田君・・・最近良い感じだね。売り上げがGo君についで2位ではないか」

「は・・・ありがとうございます・・・これもGo先輩の指導のおかげです」

「うむ・・そうかこれからも頑張りたまえ」

 その翌日、山田は営業の途中にGoの姿を見かけた。駆け寄って声をかけようとしたその時、Goの顔が、今まで見た事も無いほど歪んでいる事に気付き、咄嗟にその場から離れた。あの表情は、いったい何を意味していたのだろう?山田はその事が気になり、その日の営業は全くの不振に終わった。

 そんなある日、Goは山田に『この書類を、ある人の所に届けてくれないか?』と言われ、人の良い山田は何も疑う事なく用事を引き受けてしまった。この事が自分の運命の分かれ道となる事も知らずに。

「三丁目か……」

 山田はGoからもらった紙片に書いてある住所に向かっていた。足取りも軽やかに、小春日和の川辺を歩く。……と、突然空が暗くなった。太陽を隠す雲などなかったはずなのに。山田は空を見た。そこに山田が見たのは、巨大な飛行物体であった。

「うわ―――――――――ッ!」

 

 山田は手足を鎖につながれていた。僅かに意識があったが山田には夢の中の出来事に感じた。そして何処からともなく会話が頭に入っ

てきた。

「・・コノセイブツガ、チョウサイン”デンジャラス・ゴウ”ガ、エランダ ヒョウホンカ・・・?」

「ソウダ。……ヨシ、いんぷらんとヲハジメヨウ」山田は必死に目を開けようとするが、開かない。体を起こそうとしても自分の体がそこにある、という確信すらないので、起こしようがない。しかし突然体のどこかに熱を感じた。

「アーチーチーアーチー!!」

 

「コレデ ワレワレ ノ ケイカク ハ サイシュダンカイ ニ ハイル」「ムハッムハハハ・・・・」

 一体何が起きたのだろうか・・、山田が目を覚ましたとき、そこは三丁目の空き地であった。でに夕暮れ時で、オレンジ色の景色が辺りを包んでいた。

 山田は自分の体に何も異常が無い事を確認すると、まだ夢の中にいるような気分でGoのメモに書かれた住所を探した。そして何事も無く書類を渡して自分の家に帰りついた。……おかしい。鍵が開かないのだ。何度も自宅の扉を開けようと試みるが、無駄な努力であった。表札を見る。『田中』……山田は自分の目を疑わざるをえなかった。

 

 山田は途方に暮れていた・・・。行く先々で、自分の存在を否定され続けた山田は、まだ夢を見てるのかと、さまよい歩いていた。

「・・・・山田君」ふと誰かに呼び止められた山田は嬉々とした。

「誰だ・・・、僕を知っているのか?、いったどうなってるんだ!?」

「……Go……さん」そこにはいつもと変わらぬGoが立っていた。山田はその顔を見て、ようやく夢から覚めたような気分になり、涙が出そうにもなった。「どんな気分だい、山田君」

「え……?」

「山田という人間の存在がキレイサッパリ無くなった感想は」

「ご・・Goさん・・・いったいどういう事ですか・・?、私には何

がなんだか・・・」狼狽した山田がオロオロと問いただした。

「いいだろう・・・君が選ばれた人間だということ教えてあげよう」

 Goは静かに語り出した

「この世界は我が尊師であるチライ・ア・パッポによって創造された。君はそのチライ尊師の直径の孫にあたるパッポ!そして世界はハルマゲドンを迎えようとしているパッポ!」

「パッポ……?」

 Goの目は山田を通りすぎてどこか遠い幸せの国に焦点があっているようだった。

 Goは語りつづけた「今のこの世界は堕落に満ちている・・、若者はランバタとかいう踊りを踊り狂い、神奈川県警は不祥事続き、挙げ句に放射能までもらして、地球を汚染している・・・、もうガイアの命は長くない・・・・」

「そ・・それと私と、どう関係があるんですか!?」

「ガイアの命はチライ・ア・パッポの命!すなわち君の命なのだ!」

「な、なんですって!?」山田は驚いた。しかし、しばらくすると冷静になり「……意味がわからないんですが」と、困り果てて言っ

た。

「世界の終末を回避するために君を永遠に生かすことにしたのだ。しかし、永遠の生は永遠の死だ!」

「……???」

 山田は余計わからなくなった。

「君はこれから知ることになるだろう・・・。永遠・・・それは喜びも、悲しみも、苦しみも、全てが永遠に続くのだ・・・」

「そ・・っそんな?」

「それが君の宿命だ・・・」

「違うッ!私は私だ、Goさん!」

「……君の体の中に今、何が入っているか知っているかい?」

「ハッ……まさか……あれは……夢じゃなかったのか?」

「夢じゃないさ。それこそが君がガイアであることの証明なんだ!」

「馬鹿な!あなたになんの権利があるというんだ!?」

「私の権利ではない。大宇宙の意志さ」

「話にならない……埋めこまれたガイアとやらを取り除け!いますぐ!」

「無理だ……いや、一つだけ方法はあるが」

「どうすればいい?」

「……ハルマゲドン」

 

 ・・・・ハルマゲドン・・・。あの日、Goはその言葉を残して消えた。それからの山田は、その言葉を頼りにガイアの謎を探し歩いた

・・・。そして半年が過ぎた頃、ついに山田は知ったのだ。ハルマゲドンという生命体を!

 ハルマゲドンは、Goたち組織の手による、まさに最悪の発明であった……。人類の歴史上に生まれた、たぐいまれな人物の体の一部か

ら特殊な方法で培養された、人類を超越した生命体……。ハルマゲドンは、一体で世界を終末に導くことが出来る。そのハルマゲドン

が既に、10体以上も作られていたのだ。

 まさか、この最悪の生物兵器が、東京の地下で建造されているとは誰も気付いている者はいないだろう。山田は自分を取りもどすには

、もうこのハルマゲドンの力を使うしか道はないと悟った。しかし、Goは何故自分に不利になる情報を俺に話したんだ……?ああッ……わからん……俺が第2のガイアだと?−−山田はハルマゲドンの前で考えていた。いくら考えても答えは出ない。

「あんたが新しいガイアかね」

 突然背後から話しかけられた山田は驚いて振り向いた。

 山田に話しかけた人物は、リリスと名乗った。「あんたが・・・Goに選ばれたんだねぇ・・」

「ご・・Goを知ってるのか!?」

「あやつはねぇ・・、神にでもなったつもりかねぇ・・・。この地球の行く末をまるで、ゲームか何かのように楽しんでるんじゃよ」

「Goは……俺を連れ去った宇宙人の仲間なのか?」

「宇宙人……?ああ、あの連中の事かね。あいつらはここ、ハルマゲドンを巣立っていった、ただの人間じゃよ」

「人間……なのか」

「しかしGoはね……違うんじゃ。あいつは……ホンモノなんだよ」

 

「ホンモノ……?」

「そう……ホンモノの小麦粉じゃ」

「はあ?」

 リリスはこの世界のどこかに黄金の小麦粉があり、Goはその秘密をつかんでいるのだと語った。そして、その小麦粉で作られた料理

は世界を救うのだと……。

 そして山田は旅だった。黄金の小麦粉を探して……。やがてある村で休息をとる山田の耳に悲鳴が飛び込んで来た。それはGoの手下が

村人逹を襲っていたのだ。

『こんな所まで、Goの魔の手が・・・ゆ・る・せんー!!』バリバリバリ!山田の服がちぎれた。Goを探して村を歩いていると、世界宇宙人協会主催の格闘大会が開かれており、Goもそれに出場する事になっている事がわかった。山田は、公の場でGoを倒す事を誓った。

 

 死闘の末、山田は順当にトーナメントを勝ち昇っていった。しかし、Goとの決勝戦を前に山田は、Goの放った手下たちに邪魔され時間までに決勝戦に行けそうになかった・・・。しかし!その時4つの影が現れた!!

「俺達が助太刀するぜ、山田!」ここに、昔山田と戦って敗れ、正義に目覚めた拳聖達が一同に集った!

「邦丸(ホーガン)!碑外贋陀無(ひげがんだむ)!テューテョイ!犬葬(けんそう)!」

「親友の俺達に黙って戦おうなんて、水臭いぜ山田!」

”くくくく・・・”Goが薄笑いを浮かべながら現れた。

”面白い・・実に面白いくなってきたじゃないか・・。なぁ山田よ・・この決勝戦、普通に闘っては面白くない。ちょうどここに5人対5人・・そこでひとつ、団体戦で雌雄を決するというのうはどうだろう・・・?”

『俺はおまえ以外と闘う気は無い!』山田は叫ぶ。しかし山田は、Goの背後に信じられないものを見た。

『……エ、エリザベート!』

 そこには、捕らわれの身となった山田の妹、エリザベートの姿があった!

「ふふふ・・・どうする山田!!」Goは、ナイフをエリザベートの胸に付き付けると、一気に服を切り裂いた。

「いや〜ん(パンチラ)」

「や、やめろGo!!」

「ふははは・・・・どうだ?団体戦を受ける気になったか?ん〜?」

「クッ、解かった!!その勝負受けたぜ!Go!!!」

「よしっ、行くぞ!……どうしたテューテョイ!?」気付くと拳聖一の真面目人間のテューテョイが血を吐いて倒れていた。

「パッ……パンティィ!」鼻血だった。そんなテューテョイを無視してリングに上がろうとした山田だったが、他の3人もエリザベートのあらわな肌とパンティにみとれていたので、一発ずつ殴っておいた。

「ククク・・・それでは、そろそろ始めるとするか・・・」

 Goが不適に笑いながら手をスッと上げると、一人の男がGoの後ろから飛び出してきた「一番手!四天王が一人、西Jo秀樹じゃ――――――――ッ!」

 序盤にもかかわらずGoの右腕と目されるヒデキが出てきたことで、拳聖達に動揺が走った。山田は特に何も考えず、ただの勘でテューテョイを先鋒に指名した。

『ムエタイ・テューテョイがお相手するぜ―――――――――ッ!』

リング上ではすでにヒデキが『ブーメラン!ブーメラン!ブーメラン!』と叫びながら、愛用の武器を振り回していた。

「そりゃー!!」序盤から激しい戦いが繰り広げられた。だが、次々と華麗な技をだすヒデキの前に、ムエタイの王者テューテョイが苦しめられていた。そしてついにヒデキの奥義のエジキとなってしまった。

『奥義、賄笑夢椎栄―ッ!』

『ぐはぁ!!』

『テューテョ―イッ!』

『次は俺だ―――――――――ッ!』二番手は邦丸が名乗りをあげた。Go側は勝ちぬきで西Joがそのまま出ている。しかしヒデキとGo

はかねてから不仲だという説が出ており、邦丸はその心のスキをつくことを思いついた。ざわ……ざわ……。

 

『くくく…ヒロミ、てめぇの出番はねぇぜ。こいつら全員俺一人で片づけてやるぜ。No1はこの俺様よ――ッ!』ヒデキはGoよりも上である事を証明する為に調子づいてしまった。

『くらぇ!賄笑夢椎…』ヒデキが人文字でY・M・Cと作り掛けたその時

『今だッ!流星脚―ッ!』

『ぐわ―――――――――ッ!』おごった心のスキをついた邦岩の一撃がヒデキを葬り去った。ヒロミはその様子を見てうっすらと笑みを浮かべる。

『フッ……我々の中で一番格下のヒデキを倒したからといっていい気になるな!次は五郎だ!』

『くくく・・・少しは骨のありそうなやつもいるな』ゴロウは笑みを浮かべながらリングに上がった。『油断して、ヒデキのような無

様な格好をさらすなよ・・・』Goが険しい顔でつぶやくとゴングがなった。

『そりゃー、流星脚――ッ!』砲丸が先手必勝とばかりつっかけた。

『待った!ゴロウは反則だッ!』山田が突然叫んだ。Goの顔がみるみる青ざめてゆく。するとゴロウは地の底から絞り出すような声で笑ったかと思うと、突然前のめりに倒れた。そしてその背中がパックリと開き、中から得体の知れない生物が飛び出した!その化け物が暴れ出すと、邦丸に襲いかかった。

『皆!、邦丸を助けるんだー』山田の合図により、碑外贋陀無と犬葬と山田がリングに上がった。

『貴様らー!!』

 それを見て カズオとテルヒコもリングに上がった。

『そりゃ――――――――ッ!』

 ゴロウの体から現れた化け物は、アッと言う間に邦丸の首を飛ばした。助けに入った犬葬はなすすべも無く立ち尽くし、それを見たカズオは満足げな顔を浮かべた。しかし、その化け物はくるりと振り向き、突然口から青い炎を吐いたかと思うと、そこには人間の姿を

とどめない黒焦げの大きな塊が転がっていた。

『まずいぞ…、ゴロウのやつ制御が利かなくなってる…』

 そうこうしてる内に化け物となったゴロウは、犬葬の体を巨大な角で串刺しにした。

『グハァ!』

 暴れ続ける化け物はテルヒコにも襲いかかった。

『フゥ…仕方あるまい 殺れ。テルヒコ』Goがつぶやいた。

 

『殺!』一言テルヒコが叫ぶと突如暗雲がたちこめ、天界から光の鉄槌が下された。そしてその瞬間ゴロウの姿は跡形も無く消え去った。

『なっ、なんだ今の技は!?』驚く山田を無視して、Goは残った二人でタッグマッチ形式で闘わないかと提案してきた。

『望むところだ!』テルヒコの謎の技に恐怖を感じながら、今、最後の闘いが幕を開けた。

『フフフ・・・テルヒコよ。ちょうど腕が訛っていた所だ私から行こう』

『ハハッ!』

 Goがさっそうとリングへ上がった。それ見た山田は自分が押さえ切れなくなっていた

『ご、Go〜!』

 すると碑外贋陀無山田の手を掴み制止した

『まだ…序盤戦だ。ここは俺が行く』

『ほう、碑外贋陀無か……なぜそう死に急ぐかな。ジャペァーン!』Goの口からハイテンションな叫びが発されたかと思うと、突如碑

外贋陀無の右腕が吹っ飛んだ。

『フフフ……一撃で殺すなどという慈悲深い真似はしないぞ。苦しむ姿を見て、ゆっくりと楽しまなくてはなあ!アーチーチー!』

『碑外贋陀無ー!!』

『や、山田…。だ、大丈夫だ…まだやれる…』碑外贋陀無がカラ元気でこたえると『くくく。まだやれるか…それは楽しめそうだぜ…』Goが哀愁漂った流し目で碑外贋陀無を見る。

 と、碑外贋陀無は突然中にフットバされた。『行くぞ、テルヒコ!』『そりゃー!』

 

 テルヒコが碑外贋陀無の体を押さえつける。Goは突如リズムをとって歌い始めた

『♪見つめあーうー視線のレーザービームでー』

 Goの目からレーザーが飛び出し、碑外贋陀無の目を襲う!肉が焦げるイヤな臭いがして碑外贋陀無が倒れこむ。しかしまだ死んではいない。

 Goは、その苦しむ姿を見て、恍惚とした表情を浮かべた。そして、テルヒコが間髪いれず『フラメンコ』を踊ると、碑外贋陀

無の腕が吹き飛んだ。

『ギャー!!』

『き、ききたないぞ、Go!!二人ががりとは――ッ!』山田がさっそうと助けに入ったその時『ジャペァ〜ン!!』Goのトドメの一撃が碑外贋陀無に炸裂した。

『グア―ッ!』

 

 碑外贋陀無の全ての内臓がリングに四散する!生暖かい臓器の中にはいまだ脈動を続けているものもあった。碑外贋陀無は一瞬うつろ

な目をしたかと思うと山田のほうを見つめ『アトハマカセタ』という形に口を動かすと幾度かの痙攣ののち、ついに絶命した。享年29才

、材木屋の快活な次男坊であった。

『ゆ…る…せん――――ッ!』(バリバリバリ!!)『そりゃ――ッ!』

 怒りに燃えた山田は、臓物の散乱するリングに駆け上った。

『ふふふ待っていたぞ山田。それっ!』Goがコーナポストに隠されていたスイッチを押すと無数の鎖が山田を捕らえた。

『秘技!よろしく哀愁――ッ!』

『うっ、動けん――――ッ!』四肢を鎖に繋がれた山田はもがくが、強力な鎖はビクともしない。それどころか逆に肉に食い込み、あちこちで血を滲ませている。

『クックック……いいザマだな山田』

 Goの流し目が山田に注がれる。そして最後の言葉が漆黒の闇の中にとどろく。

『言えないよ好きだなんて―――――――――ッ!』

『ぐ、ぐぁー!!!』山田は悲痛のうめき声を上げると気を失った。その時、山田の魂は宇宙100憶光年の彼方にたたずんでいた。

『ここは・・・俺はいったい?』やがて山田の前に一人の女性が輝きと共に現れた。

 

『マ……ヒ……ナ……』女性はそう呟いて慈愛に満ちた表情を見せたかと思うと、金色の光の粒となり山田の体に降り注いだ。山田は急に心の闇が晴れ、人類の謎のすべてが解明されたことを感じ、今までの自分の悪行を悔い、すべての人々の救済を一刻も早く行わねばならないと思った。

 チャクラを全開に開いた山田は大宇宙の心理と一体化し光の中心へと飛んでいった。その頃、太陽系第三惑星『地球(テラ)』では、幽体離脱した山田の体を狂気の瞳で痛めつけるGoの姿があった。

 

『クククッ……死ね……死ねッ!』長い戦闘と宇宙からの黒い電波により既にGoの脳は常軌を逸していた。テルヒコはそんなGoを一人残していずこかへと去った。そして気づくとGoの姿もそこには無い。新しい野望に向かって歩き出したのか、何か失ったものを探しに行ったのか、それはGoだけが知っていた……。

 山田を倒し・・・テルヒコがさり・・・・Goの旅は続いた。

『俺は・・・いったい何をするべきなのか・・・』

 Goは旅に出てから何度も自問自答を繰り返していた。宿敵だった山田を倒し満たされた筈のGoの心には、ただ冷たく淀んだ風だけが流れていた。

 

 Goはふらりと立ち寄った町で一人の老人に出会った。老人は言う。

『オマエは、世界が滅び去るまで安息の時を得ることは無いじゃろう』

 別の町では若い女に恋をしたが旅をやめることは出来なかった。女は別れ際に言った。『あんた素敵だったわ。だけどちょっと鼻声ね……』

 旅は、つづく……。

 Goの旅路は長く険しかった。だが、その旅がGoの中の何かを変えつつあった。ある日、川のほとりで静かに眠るGoの夢に謎の輝く女性が語り掛けてきた。

『Goよ…悟るのです』大宇宙の心理を受け止めたGoの中で何かがはじけた。『真実は一つ、そうなんですね――――――――ッ!』

 

 Goのつかんだ真実とはなにか?それはしばらくの間、読者の想像にまかせるとしよう。ここでは彼の行動を示すだけにとどめる。彼は山田を探し始めたのだった。山田を探して何をするのか……それはGoの澄んだ瞳が物語っていた。

 山田は既に、この世のものではなくなってしまったのかもしれない。山田を探すGoは真実の光に導かれてひたすら歩いた。そして、ゴビ砂漠の砂の中に埋まる古代の遺跡が動き出した時、宇宙(そら)の彼方より一条の光が走った。そしてそれを見たGoはつぶやいた。

『山田…』

 山田こそが大宇宙の意思そのものでありGo自身もまたその転生したひとつの姿に過ぎなかったのだ。神の意志のもとに山田との争いを行ったはずが、実はその行為自体が神に対する冒涜であったとは……。地上から伸びた光が人類の二番目の月に向かって伸びて行く。そのさまを見て、Goは叫び出したい衝動にかられた。嗚呼、天から声が聞こえる。あれは懐かしい山田の声ではないか?

『我々狂気の子らは永遠に生きる呪いを受けた!しかし我々人類はただひとつの真理、愛のためだけに生きねばならない―――――――――ッ!』

 Goの旅は終わらない……。

 

 

 

『ハルマゲドン1999』    完

 

(本日はエイプリルフールです)